岩倉きぼうクリニック

円形脱毛症

丸 円形脱毛症

ある日突然、鏡を見て髪の毛の異変に気づいた時、その衝撃と不安は計り知れないものです。円形脱毛症は決して特別な病気ではなく、多くの方が経験しうる疾患です。

円形脱毛症は、自己免疫疾患とよばれ、主に自分自身の免疫の異常によって引き起こされる病気です。
自身の免疫が誤って健康な毛包を異物と認識し、攻撃します。

これにより、毛包が炎症を起こし、髪の成長が阻害されます。

「この脱毛は、私のストレスのせい?」と悩んでいませんか?
髪が抜け始めると、「ストレスのせいかな…」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
しかし、円形脱毛症は、心の問題やストレスが直接の原因ではなく、”免疫の異常によって健康な毛包が攻撃されてしまう「自己免疫疾患」”です。
決してご自身を責めず、まずは専門医にご相談ください。

円形脱毛症で悩む患者さん

円形脱毛症の多様なタイプと特殊な亜型(ADTAFSを含む)

円形脱毛症は、髪の毛が円形や楕円形に抜け落ちる病気です。しかし、その症状の広がり方や重症度によって、いくつかのタイプに分類されます。当院ではタイプに応じて治療法を変えています。初期の段階では、ほとんどの患者さんが頭皮に特別な自覚症状を感じません。かゆみや痛みなどを伴うことが少ないため、髪を洗っている時や整髪中に、偶然脱毛斑(だつもうはん)を見つけるケースが少なくありません。

主な円形脱毛症の種類は、以下の通りです。

  • 単発型(たんぱつがた)
    • 脱毛斑が頭部のどこかに一つだけ現れる最も一般的なタイプです。
    • 比較的小さな脱毛斑で始まり、自然に治ることもあります。
    • しかし、放置すると他のタイプへ進行する可能性もあります。
  • 多発型(たはつがた)
    • 脱毛斑が複数箇所に現れるタイプです。
    • 単発型が時間とともに進行して、多発型に移行することもあります。
    • 脱毛斑同士がくっつき、大きな脱毛範囲となることもあります。
  • 蛇行型(だこうがた)
    • 脱毛斑が襟足から側頭部(そくとうぶ:こめかみから耳の上あたり)にかけて帯状に広がるタイプです。
    • 髪の生え際に沿って広がる特徴があり、治療に時間がかかる傾向があります。
  • 全頭型(ぜんとうがた)
    • 頭部全体の髪の毛が全て抜け落ちるタイプです。
    • 見た目の変化が大きく、患者さんの精神的な負担も大きくなりがちです。
    • より重症なタイプとされており、専門的な治療が必要です。
  • 汎発型(はんぱつがた)
    • 頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、ひげ、わき毛、陰毛など、全身の体毛が抜け落ちる最も重症なタイプです。
    • 治療には長い期間と根気が必要となることが多いです。

また、脱毛斑の周りの毛には「感嘆符毛(かんたんふもう)」と呼ばれる特徴的な切れ毛が見られることがあります。これは、毛根部が細く、毛幹部(もうかんぶ:皮膚から外に出ている毛の部分)が太くなることで、ちょうど感嘆符「!」のように見えることから名付けられました。この感嘆符毛の有無は、円形脱毛症を診断する上で重要な手がかりの一つです。

急激な脱毛を伴う特殊な円形脱毛症:ADTAFS

円形脱毛症の中には、非常に急激かつ広範囲に脱毛が進行する特殊な亜型が存在します。
急性びまん性全頭型脱毛症(ADTAFS:Acute Diffuse and Total Alopecia of the Female Scalp)」です。

  • 定義と特徴:

    • ターゲット層: 女性に多く見られる稀なタイプです。

    • 進行速度: わずか数週間〜数ヶ月という急性の経過で、頭皮全体がびまん性(全体的に薄くなる)に脱毛し、最終的に全頭型(頭髪の全てが抜ける状態)に至ることがあります。

    • 発症の背景: 他の円形脱毛症と同様、毛根に対する自己免疫の異常反応が原因と考えられています。

    • 重要性: ADTAFSは、急性休止期脱毛症と誤診されやすいため、正確な診断のためには専門性の高い検査(ダーモスコピーなど)が不可欠です。

【患者様へのメッセージと予後】

  • 診断の重要性: 当院では、急激な脱毛でお悩みの方に対し、ADTAFSを含めた鑑別診断を慎重に行います。特に急性の経過をたどる脱毛症の診断には、経験豊富な専門医の視点が不可欠です。

  • 希望のある予後: ADTAFSは重症型に分類されますが、円形脱毛症の亜型の中では比較的予後が良いとされており、適切な治療を開始することで、短期間に発毛が期待できるケースも多いことが特徴です。

  • ADTAFSは、急激に広範囲に脱毛が生じるため、つらく感じる方が非常に多いです。しかし、このタイプの炎恵瓊脱毛症の方は、その後の治りも良いことが多いので、希望を捨てずに治療を続けるのが大切です。

円形脱毛症の主な原因と発症メカニズム

円形脱毛症は、現代の医学では「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」という病気の一つとして考えられています。自己免疫疾患とは、本来、体内に侵入してきたウイルスや細菌などから体を守る役割を持つ免疫細胞が、何らかの理由で誤って自分の体の正常な細胞を攻撃してしまう状態を指します。

円形脱毛症の場合、具体的には次のようなメカニズムで発症すると考えられています。

  • 自己免疫の異常
    • 円形脱毛症の最も有力な原因として、免疫システムの異常が挙げられます。
    • Tリンパ球という免疫細胞が、髪の毛を作る工場である毛包(もうほう)を、なぜか異物と間違えて攻撃してしまいます。
    • この攻撃により、毛包が正常に機能しなくなり、髪の毛が十分に成長できなくなって抜け落ちてしまうのです。
    • 健康な状態であれば、免疫細胞は毛包を攻撃することはありません。
  • ストレス
    • 精神的・肉体的なストレスが、円形脱毛症の発症や悪化の引き金になることは、古くから経験的に知られています。
    • しかし、ストレスそのものが直接的な原因ではありません。
    • ストレスは、免疫システム全体のバランスを崩し、自己免疫の異常を誘発したり、既存の脱毛症を悪化させたりする要因の一つと考えられています。
    • 過度なストレスは、身体的にも心理的にも大きな負担となり、治療効果にも影響を与えかねません。
  • 遺伝的要因
    • 円形脱毛症を発症した方の約10%に家族歴があると言われています。
    • 特定の遺伝子のタイプを持つ方が発症しやすいことが、研究で明らかになっています。
    • このことから、遺伝的な素因(体質)が発症に関与していると考えられています。
    • 親族に円形脱毛症の人がいる場合、発症リスクが若干高まる傾向があるということです。
  • アトピー素因
    • アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息などのアトピー素因(アレルギー体質)を持つ方に、円形脱毛症の発症が多い傾向があります。
    • これは、アトピー素因を持つ人が一般的に免疫系の過敏性(敏感な状態)を持っているためと考えられます。
    • アレルギー体質の方の免疫システムは、些細な刺激にも反応しやすい特徴があります。

これらの要因が複雑に絡み合い、結果として円形脱毛症の発症に至ると考えられています。複数の要因が重なることで、より発症リスクが高まることもあります。

診断のための検査方法と基準

円形脱毛症の診断は、主に皮膚科専門医による丁寧な視診(ししん:目で見て診察すること)と問診(もんしん:お話を聞くこと)から始まります。当クリニックでは、患者さんの脱毛の状態や過去の病歴、ご家族の病歴などを詳しくお伺いし、慎重に診断を進めていきます。

患者さんの状態を正確に把握し、適切な治療方針を立てるために、必要に応じていくつかの検査を行います。

具体的な検査方法は、以下の通りです。

  1. 視診・触診(しょくしん)
    • 脱毛斑の大きさ、形、数、分布(どこに広がっているか)を直接確認します。
    • 頭皮の状態(赤み、炎症、フケの有無など)も詳しく観察します。
    • 脱毛斑の周りに、円形脱毛症に特徴的な「感嘆符毛」がないかどうかも注意深く確認します。
  2. ダーモスコピー検査
    • 特殊な拡大鏡(ダーモスコープ)を使用して、頭皮や毛根を詳細に観察する検査です。
    • 肉眼では見えにくい微細な変化や、毛穴の状態、残存する毛根の有無などを確認できます。
    • この検査は、他の脱毛症との鑑別(かんべつ:区別すること)にも非常に役立ちます。
    • 毛の生え方や頭皮の血管の状態などを詳細に観察し、診断の精度を高めます。
  3. 牽引試験(けんいんしけん)
    • 脱毛斑の周りの髪の毛を指で軽く引っ張り、どのくらいの毛が抜けるかを調べます。
    • 活動性が高い(つまり、進行中の)円形脱毛症では、比較的容易に多くの毛が抜けることがあります。
    • この検査で、脱毛症の進行度合いや活動性を評価することが可能です。
  4. 血液検査
    • 必要に応じて、甲状腺の異常や、膠原病の合併がないかを調べることがあります。
  5. 皮膚生検(ひふせいけん)
    • 診断が非常に難しい場合や、他の稀な疾患との鑑別が必要な場合に、頭皮の一部を採取し、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる検査です。
    • この検査が必要となることは稀であり、通常は上記の検査で診断が確定します。

これらの検査結果と、皮膚科専門医による臨床所見(患者さんの状態を総合的に判断した結果)を総合的に判断し、円形脱毛症の診断を行います。早期に正確な診断を受けることが、効果的な治療へつながる第一歩です。

円形脱毛症の方の写真です

円形脱毛症と間違いやすい脱毛症

円形脱毛症は特有の症状を示しますが、似たような脱毛症状を引き起こす他の病気も存在します。ご自身で判断することは非常に難しく、正しい治療を受けるためには、皮膚科専門医による正確な診断が不可欠です。

ここでは、円形脱毛症と間違いやすい代表的な脱毛症を5つご紹介いたします。

  1. 男性型脱毛症(AGA:Androgenetic Alopecia)
    • 男性ホルモンの影響で、思春期以降に生え際や頭頂部から徐々に薄毛が進行する脱毛症です。
    • 円形脱毛症のように急激に円形に髪が抜け落ちるのではなく、ゆっくりと進行する薄毛が特徴です。
    • 女性にも同様の症状が見られることがあり、女性型脱毛症とも呼ばれます。
    • 脱毛のパターンや進行速度が円形脱毛症とは異なります。
  2. 脂漏性脱毛症(しろうせいだつもうしょう)
    • 皮脂の過剰分泌により、頭皮が脂っぽくなり、フケやかゆみ、炎症を伴う脱毛症です。
    • 炎症によって毛根がダメージを受け、広範囲にわたって髪が薄くなることがあります。
    • 円形脱毛症のように、特定の場所に明確な脱毛斑ができるわけではありません。
    • 頭皮の赤みやべたつき、強いかゆみなどが特徴です。
  3. 抜毛症(ばつもうしょう)
    • ストレスや精神的な要因から、自分で髪の毛を抜き取ってしまう癖によって起こる脱毛です。
    • 脱毛斑の形が不規則で、毛の長さがまばらであることが特徴です。
    • 円形脱毛症とは異なり、毛根自体に病変はなく、患者さん自身の行為によって生じます。
    • 無意識のうちに髪を抜いている場合もあり、周囲からは気づきにくいことがあります。
  4. 休止期脱毛症(きゅうしきだつもうしょう)
    • 高熱、手術、出産、過度なダイエット、強い精神的ストレスなどの後に、一時的に多くの髪の毛が休止期(きゅうしき:髪の毛の成長が止まり抜け落ちる準備をする期間)に入り、数ヶ月後に一斉に抜け落ちる脱毛症です。
    • 広範囲に髪が薄くなりますが、円形脱毛症のようなはっきりとした脱毛斑は形成されにくいです。
    • 原因となる出来事からしばらく経ってから脱毛が始まるのが特徴です。
    • 抜け毛が増える一方で、頭皮全体が薄くなる印象を与えます。
  5. 瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)
    • 外傷や熱傷(やけど)、あるいは特定の皮膚疾患(例:扁平苔癬(へんぺいたいせん)、ループスエリテマトーデス)によって毛包が破壊され、頭皮が瘢痕化(はんこんか:傷跡になること)して、二度と髪が生えなくなる脱毛症です。
    • 脱毛斑に発赤(ほっせき:赤み)や盛り上がりが伴うことがあり、脱毛部分の皮膚に光沢が見られることもあります。
    • 毛穴が失われているため、新しい髪が生えてくることはありません。
    • 不可逆的な(元に戻らない)脱毛である点が、円形脱毛症と大きく異なります。

これらの脱毛症は、それぞれ原因や治療法が大きく異なるため、自己判断せずに必ず皮膚科専門医にご相談ください。岩倉市にある当クリニックでは、皮膚科専門医が患者さん一人ひとりの状態を詳しく診察し、正確な診断と最適な治療をご提案いたします。北名古屋市、小牧市、一宮市、江南市など、周辺地域にお住まいの方も、どうぞお気軽にご来院ください。

ケロイドや円形脱毛症の治療に使う注射薬です

円形脱毛症の治療法:効果とリスク、最適な選び方

円形脱毛症は、ある日突然髪の毛が抜けてしまうことで、多くの方が不安や戸惑いを感じる病気です。しかし、医学の進歩により、現在では多様な治療法が開発され、症状の改善が期待できるようになりました。ご自身の症状や生活スタイルに合った最適な治療法を見つけるため、皮膚科専門医と相談し、効果とリスクを正しく理解することが大切です。

当クリニックでは、患者さんの脱毛タイプ、進行度、年齢、全身状態を総合的に評価します。そして、エビデンスに基づいた最適な治療計画をご提案しています。

ステロイド外用・内服・局所注射の治療効果と注意点

ステロイドは、免疫の過剰な働きを抑える薬剤です。円形脱毛症が自己免疫疾患であるという考えに基づき、免疫細胞による毛包への攻撃を鎮める目的で広く用いられます。重症度や脱毛範囲、全身状態に応じて、外用薬、内服薬、局所注射といった剤形で使用されます。

  • ステロイド外用薬(塗り薬)
    • 治療効果:軽症の円形脱毛症や
    • 脱毛斑が小さい場合に第一選択薬です。
    • 頭皮に直接塗布し、局所的な炎症を抑え発毛を促します。
    • 注意点:長期使用や広範囲への塗布は、
    • 頭皮の皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)ことや、
    • 毛細血管が拡張して赤みが出る(毛細血管拡張)などの副作用を招くことがあります。
    • 皮膚の状態を診察しながら、使用量や期間を調整することが大切です。
  • ステロイド内服薬および点滴
    • 治療効果:脱毛範囲が広い場合や、脱毛の進行が非常に速い「急性期(きゅうせいき)」に、短期間集中して用いられることがあります。
    • 全身の免疫反応を強力に抑え込み、脱毛の進行を食い止めます。
    • 注意点:全身に作用するため、糖尿病の悪化、胃潰瘍(いかいよう)、高血圧、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの副作用のリスクがあります。
    • 自己判断での服薬中止は、症状の急激な悪化につながる「リバウンド」を起こす可能性があります。
    • 医師の指示に厳密に従い、決して中断しないでください。
    • 点滴の場合は、入院が必要になります。
  • ステロイド局所注射(脱毛斑への注射)
    • 治療効果:脱毛斑が比較的小さく、数も少ない場合に直接脱毛部分にステロイドを注射します。
    • 薬剤を高い濃度で直接毛包周辺に届け、効果的に炎症を抑え発毛を促します。
    • 単発型の円形脱毛症で、他の治療で効果が不十分な場合に選択肢となります。
    • 注意点:注射部位の皮膚が一時的にへこんだり、色素沈着(しきそちんちゃく:皮膚の色が濃くなること)が起こったりすることがあります。
    • 注射時の痛みを伴うため、子どもへの適用は慎重に判断します。

どの治療法を選択するにしても、皮膚科専門医による適切な診断と、副作用の有無を丁寧に確認しながら、治療を進めることが不可欠です。

局所免疫療法と光線療法のメリット・デメリット

ステロイド治療以外にも、円形脱毛症の治療には多様な方法があります。ここでは、自己免疫反応の調整を目的とした局所免疫療法と光線療法について、それぞれの特徴と注意点を解説します。

  • 局所免疫療法(SADBE療法)
    • 作用機序:脱毛斑のある頭皮にSADBEを塗布し、人工的に軽い「かぶれ(接触皮膚炎:せっしょくひふえん)」を起こさせます。
    • これにより、自己免疫の攻撃の「矛先(ほこさき)」を変え、毛包への攻撃を抑制し発毛を促すと考えられています。
    • メリット:広範囲の円形脱毛症や、他の治療で効果が得られなかった場合に有効性が期待されます。
    • 全身への影響が少ないため、内服薬の副作用が心配な方や、子どもへの適用も比較的安全に検討できます。
    • デメリット:治療中に頭皮のかゆみ、赤み、かぶれなどの皮膚炎が生じます。
    • かぶれの程度を調整するため、1,2週に1回程度の頻回な通院が必要です。
    • 薬剤の匂いや、接触皮膚炎によって、日常生活に不便を感じる方もいます。
  • 光線療法
    • 作用機序:特定の波長の紫外線(主にエキシマライトから照射される308nmの光)を脱毛部に照射します。
    • 免疫細胞の働きを調整し、炎症を抑え発毛を促します。
    • メリット:比較的副作用が少なく、痛みを伴わない治療法です。
    • 10歳以上の子どもの円形脱毛症にも多く用いられ、全身への負担が少ない点が特徴です。
    • デメリット:効果を実感するまでに時間がかかることがあり、1~2回週に一回程度の継続的な通院が必要です。
    • 広範囲の脱毛には照射範囲が限られるため、適さない場合があります。
    • 光線過敏症(こうせんかびんしょう:日光アレルギー)の方や、皮膚がんの既往がある方は慎重に検討が必要です。
    • 照射部位に軽いやけどのような症状が出ることが稀にあります。

これらの治療法も、患者さんの状態や希望、ライフスタイルを十分に考慮し、皮膚科専門医が判断し、治療を開始します。

最新のJAK阻害薬の効果と副作用リスク

近年、円形脱毛症の治療に大きな進展をもたらしているのが、JAK阻害薬(ヤヌスキナーゼ阻害薬)です。これは、円形脱毛症の原因とされる免疫系の過剰な活動を、細胞内のシグナル伝達経路を直接的に阻害することで抑える新しいタイプの内服薬です。特に中等度から重度の広範囲な円形脱毛症に対して、これまでの治療では得られなかった高い有効性が期待されています。

  • 作用機序と対象
    • JAK阻害薬は、免疫細胞が毛包を攻撃する際に利用する
    • 特定の情報伝達経路(JAK-STAT経路)をブロックします。
    • 自己免疫反応を抑制し、毛包への攻撃を止めて発毛を促します。
    • 主に脱毛範囲が広範囲(50%ほど)にわたる、中等度から重度の円形脱毛症の成人患者さんが治療の対象となります。
  • 副作用と安全性
    • JAK阻害薬の主な副作用は、感染症(特に帯状疱疹)、血液検査値の異常(コレステロール値の上昇など)、などです。
    • これらの副作用については、定期的な血液検査などによる慎重なモニタリングと、医師による厳重な管理が必要です。
    • 副作用もある治療ですので、医師が必要と判断場合に、連携している総合病院へ紹介します。
  • 治療期間と保険適用
    • 現在、一部のJAK阻害薬は保険適用となっていますが、適用となる症状の範囲や基準が定められています。
円形脱毛症の治療に使う光線治療の機械です。セラビームミニ(エキシマライト)という機械です。
円形脱毛症の治療で使う二つ目の機械です。セラビーム(エキシマライト)の機械です。

治療にかかる費用と保険適用、高額療養費制度

円形脱毛症の治療の多くは、保険適応となりますが、JAK阻害薬は保険が適応されても、高額な薬剤費のため、医療費の負担が重く感じられることが多いです。下記の高額療養費制度が助けとなる場合もあり、理解しておくことが大切です。

  • 高額療養費制度(こうがくりょうようひせいど)
    • この制度は、1ヶ月間(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が、ご自身やご家族の収入に応じた自己負担限度額を超えた場合、その超えた分の費用が払い戻される制度です。
    • 円形脱毛症の治療が長期にわたり、医療費が高額になった場合にこの制度を活用することで、経済的な負担を大きく軽減できます。
    • 事前の申請:「限度額適用認定証」を健康保険組合や市町村の窓口に申請し、取得しておくと、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
    • 申請しない場合でも、後から払い戻しを受けることは可能です。
    • 制度の利用方法や、ご自身の限度額については、ご加入の健康保険組合や市町村の窓口に遠慮なくご相談ください。

岩倉市の当クリニックは、皮膚科専門医として、円形脱毛症の診断から治療を幅広く対応しております。北名古屋市、小牧市、一宮市、江南市など、周辺地域からもアクセスしやすい立地ですので、円形脱毛症でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせた最適な治療計画を、ご提案いたします。

円形脱毛症治療後の回復を早める3つのポイント:生活習慣と心のケア

円形脱毛症の治療は、単に薬を使うだけではありません。身体への負担だけでなく、心の健康にも大きな影響を与えるため、回復への道のりをスムーズにするには、日々の生活習慣や心のケアも非常に重要です。

円形脱毛症回復のポイント

回復までの期間と再発率、予防のための対策

円形脱毛症の回復までの期間は、患者さんの病状や脱毛の広がり、そして選択される治療法によって大きく異なります。単発性の軽度な円形脱毛症であれば、数ヶ月で発毛が見られることも少なくありません。しかし、複数の脱毛斑がある多発型、頭部全体に及ぶ全頭型、さらには全身の体毛が抜ける汎発型といった重度の病型では、回復に数年を要することもあります。

治療によって症状が改善し、発毛が確認されたとしても、円形脱毛症は残念ながら再発する可能性のある病気です。これは、円形脱毛症が「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」という、自分の免疫システムが誤って体を攻撃してしまう特性を持つためです。免疫系のバランスが崩れると、再び毛根への攻撃が始まる可能性があります。

再発を予防し、長期的な回復を維持するためには、日々の生活の中で次の点に意識を向けることが大切です。

  • 規則正しい生活リズムを保つ
    • 人間の体には、昼夜のリズムに合わせて機能が調整される「生体リズム」があります。
    • このリズムが乱れると、自律神経や免疫系のバランスが崩れやすくなります。
    • 毎日同じ時間に起床し、就寝することで、体の調子を整えることができます。
  • 十分な睡眠時間を確保する
    • 睡眠は、脳と体を休ませ、疲労を回復させる重要な時間です。
    • 特に、成長ホルモンが分泌される深い睡眠は、皮膚や髪の毛の修復にも関わります。
    • 理想は7~8時間の質の良い睡眠を心がけましょう。
  • バランスの取れた食事を心がける
    • 髪の毛の主成分はタンパク質であり、ビタミンやミネラルも健康な髪の成長に不可欠です。
    • 特定の食品に偏らず、肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク源、
    • 野菜、果物からのビタミンやミネラルをバランス良く摂取することが大切です。
    • 特に、亜鉛や鉄分は髪の成長に深く関わるため、意識して取り入れましょう。

治療によって症状が改善しても、自己判断で服薬を中断したり、通院をやめてしまったりすることは避けるべきです。専門医の指示に従い、計画的に治療を進めることが、長期的な回復と再発予防につながります。

ストレス管理と日常生活でできるヘアケア

過度なストレスは、免疫システム全体のバランスを乱し、毛包への攻撃を誘発または悪化させる可能性があります。そのため、ストレスを上手に管理することは、治療効果を高め、回復を早める上で重要なポイントとなります。

ストレスを軽減するための具体的な方法をいくつかご紹介します。

  • 趣味やリフレッシュできる時間を設ける
    • 自分が心から楽しめる活動に没頭する時間は、精神的な解放につながります。
    • 読書、音楽鑑賞、映画鑑賞、ガーデニングなど、無理なく続けられるものを見つけましょう。
  • 軽い運動を取り入れる
    • ウォーキングやストレッチ、ヨガなどの軽い運動は、ストレスホルモンの分泌を抑え、
    • 気分転換にも効果的です。
    • 体を動かすことで、質の良い睡眠にもつながりやすくなります。
  • リラクゼーション法を試す
    • 瞑想(めいそう)や深呼吸は、心身を落ち着かせ、リラックス効果を高めます。
    • 「マインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける練習)」は、不安を軽減するのに役立ちます。
  • 質の良い睡眠を十分に取る
    • 心身の回復には、質の高い睡眠が不可欠です。
    • 就寝前にカフェインやアルコールを控えたり、寝室の環境を整えたりすることで、
    • より質の良い睡眠が得られます。

日常生活でのヘアケアにおいても、頭皮への刺激を最小限に抑えることが、健康な頭皮環境を保つ上で大切です。

  • 優しいシャンプーを選ぶ
    • 刺激の少ないアミノ酸系や弱酸性のシャンプーを選びましょう。
    • 少量を手に取り、よく泡立ててから指の腹で頭皮を優しくマッサージするように洗います。
    • 熱すぎるお湯や強い水圧は避け、ぬるま湯で洗い流してください。
  • ブラッシングは丁寧に
    • 髪が絡まった部分は無理に引っ張らず、目の粗いブラシやコームを使い、
    • 毛先から少しずつ優しくとかすことが大切です。
    • 頭皮を傷つけないよう、力を入れすぎないように注意しましょう。

バランスの取れた食生活も、健康な髪を育む土台となります。髪の毛の成長に必要な栄養素を意識的に摂取しましょう。

  • タンパク質
    • 髪の毛の主要な成分であり、不足すると髪が細くなったり抜けやすくなったりします。
    • 肉、魚、卵、乳製品、大豆製品などを積極的に摂りましょう。
  • ビタミン(特にB群、C、E)
    • ビタミンB群は髪の代謝を助け、ビタミンCはコラーゲンの生成に関与し、
    • ビタミンEは血行促進効果が期待できます。
    • 野菜、果物、穀物から摂取しましょう。
  • ミネラル(特に亜鉛、鉄)
    • 亜鉛は細胞分裂を促し、毛髪の成長に必須のミネラルです。
    • 鉄分は全身への酸素供給を助け、健康な頭皮環境を保ちます。
    • 牡蠣、レバー、ナッツ、海藻などに多く含まれます。

円形脱毛症を隠す工夫と周囲への伝え方

円形脱毛症の脱毛部分を隠すことは、精神的な負担を軽減し、社会生活を送りやすくするために非常に有効な手段です。ご自身のライフスタイルや好みに合わせて、さまざまな工夫を取り入れてみてください。

【脱毛部分を隠す具体的な方法】

  • ウィッグの活用
    • 医療用ウィッグ:通気性や肌への優しさを考慮して作られており、長時間の着用でも快適です。
      • 自然な見た目で、日常生活を快適に過ごすのに役立ちます。
    • 部分ウィッグ(ヘアピース):特定の脱毛斑のみをカバーしたい場合に有効です。
      • ご自身の髪と馴染ませやすく、必要な部分だけを補えます。
  • 帽子やスカーフ
    • ファッションの一部として、おしゃれに脱毛部分をカバーできます。
    • 素材(綿やシルクなど肌に優しいもの)や色、デザインを変えることで、気分転換にもつながります。
    • 紫外線対策や防寒対策としても有効です。
  • ヘアアレンジ
    • 残っている髪の毛を工夫して、脱毛部分を目立たなくすることも可能です。
    • 例えば、パーマをかけてボリュームを出したり、分け目を変えたり、特定の場所に髪を流したりするアレンジがあります。
    • 美容師さんと相談して、ご自身に似合うアレンジを見つけるのも良いでしょう。
  • メイクアップ製品の活用
    • 眉毛や生え際など、メイクで補填できる部分もあります。
    • 眉用パウダーやペンシル:眉毛の薄い部分を自然に描きたすことができます。
    • ヘアパウダーやヘアファンデーション:地肌が透けて見える部分に塗布することで、髪の毛が増えたように見せる効果があります。

また、周囲の人に円形脱毛症についてどのように説明し、理解と協力を得るかは、患者さんにとって大きな課題の一つです。無理に話す必要はありませんが、信頼できる家族や友人、職場の理解者には、ご自身の状況を伝えることで、精神的な支えを得られることがあります。

  • 伝える際の心構え
    • 伝える相手を選び、ご自身の心の準備ができた時に話すことが大切です。
    • 病気の性質や、見た目の変化による心の負担について、具体的に話すことで、より深い理解が得られやすくなります。
    • 「これは感染する病気ではない」「ストレスが原因と言われることもあるけれど、それだけではない」といった情報を伝えることも有効です。
  • 周囲からのサポートの依頼
    • 例えば、職場で「この件については配慮してほしい」と具体的に伝えることで、
    • 協力を得やすくなる場合があります。
    • 学校であれば、担任の先生に状況を伝え、クラスメ友人への配慮を求めることも考えられます。

専門医による長期的なフォローアップの重要性

円形脱毛症は、一度改善しても再発のリスクがある慢性的な疾患です。そのため、皮膚科専門医による長期的なフォローアップが非常に重要となります。定期的な診察を受けることで、病状の変化を早期に発見し、適切なタイミングで治療計画を調整することが可能になります。

当院のような皮膚科専門医は、患者さん一人ひとりの病状やライフスタイルに合わせて、最適な治療法をご提案し、治療効果と副作用のバランスを考慮しながら、きめ細やかな管理を行います。

  • 治療効果の継続的な評価
    • 発毛状況や脱毛の範囲の変化を定期的に確認し、治療法の有効性を評価します。
  • 副作用の早期発見と対処
    • 使用している薬剤による副作用(例えば、ステロイドの長期使用による皮膚萎縮など)の有無を定期的にチェックします。
  • 再発の兆候のモニタリング
    • 早期に再発の兆候を捉えることで、迅速な治療介入が可能となります。

例えば、近年注目されているJAK阻害薬(ヤヌスキナーゼ阻害薬)についても、その効果やリスクを天秤にかけ、治療によるメリットがデメリットを上回ると判断した場合に、総合病院へ紹介します。Nan Liuらによる2023年のネットワークメタアナリシス(多数の研究結果を統合して分析する手法)によると、一部のJAK阻害薬は中等度から重度の円形脱毛症に高い有効性を示すものの、薬剤の種類によって有害事象(体にとって好ましくない反応)のリスクが異なることが示唆されています。

まとめ

岩倉市の当クリニックは、皮膚科専門医として、円形脱毛症の診断から最新の治療法、そして長期的なフォローアップまで幅広く対応しております。北名古屋市、小牧市、一宮市、江南市など、周辺地域からもアクセスしやすい立地ですので、円形脱毛症でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。患者さん一人ひとりの症状やライフスタイルに合わせた最適な治療計画を、ご提案いたします。

よくある質問

Q. 円形脱毛症は自然に治りますか?

軽症の場合は自然治癒することもあります。しかし、症状が悪化したり再発を繰り返したりするケースも多いため、自己判断で放置せず、早期に皮膚科を受診することをお勧めします。

Q. 小さな子どもでも治療は受けられますか?

はい、お子さんの円形脱毛症治療にも対応しています。年齢や症状に応じた、お子さんにも負担の少ない治療法をご提案します。

Q. 治療の痛みはありますか?

治療法によって異なります。光線治療は多くの場合、数日のひりひり感のみです。ステロイド局所注射は痛みを伴います。

Q. 治療にかかる費用は保険適用ですか?

円形脱毛症の多くの治療法は保険適用です。ただし、治療内容によっては自費診療となる場合がありますので、自費治療となる場合には、ご説明します。

参考文献

  • Liu N, Wang T, Tang M, Yan T, et al. Comparative efficacy and safety of JAK inhibitors in the treatment of moderate-to-severe alopecia areata: a systematic review and network meta-analysis.

追加情報

タイトル: Comparative efficacy and safety of JAK inhibitors in the treatment of moderate-to-severe alopecia areata: a systematic review and network meta-analysis

著者: Nan Liu, Ting Wang, Mei Tang, Ting Yan et al.

概要:

  • 中等度から重度の円形脱毛症(AA)に対する最新のJAK阻害剤の相対的な有効性および安全性を比較するため、ベイジアンネットワークメタアナリシスが実施された。
  • 合計3,613人の患者を含む13件の試験が分析に含まれた。
  • 低用量経口製剤(ritlecitinib 10mg、ivarmacitinib 2mg)と2種類の外用製剤(delgocitinib軟膏、ruxolitinibクリーム)は、中等度から重度のAAに対して比較的効果が低いとされた。
  • SALTスコアの低減において、brepocitinib 30mgが最も優れた効果を示し、deuruxolitinib 12mgがこれに匹敵する有効性を示した。
  • SALT50反応達成ではbrepocitinib 30mgが最高位であり、SALT75反応達成および重症AA患者に対する治療法としてはdeuruxolitinib 12mgが最も高い確率を示した。
  • deuruxolitinib 12mg/8mgはAAに顕著な有効性を示すが、他のJAK阻害剤と比較して有害事象の発生リスクが高い傾向にある。
  • ritlecitinib 50mgは、高用量経口JAK阻害剤の中で有害事象が少なく、安全性と有効性のバランスが取れた選択肢となる可能性が示唆された。
  • 大多数のJAK阻害剤は許容可能な短期安全性プロファイルを有していた。
  • 研究の適用性と精度を高めるために、さらなる直接比較試験と長期追跡期間が必要である。

要点: ・中等度から重度の円形脱毛症(AA)に対するJAK阻害剤の相対的な有効性と安全性を評価するため、ベイジアンネットワークメタアナリシスが実施された。 ・低用量経口製剤および外用製剤はAAに対する効果が低いことが示された。 ・brepocitinib 30mgはSALTスコア低減とSALT50反応で高い有効性を示し、deuruxolitinib 12mgはSALT75反応および重症AAに対する最も効果的な治療法である可能性が示唆された。 ・deuruxolitinib 12mg/8mgは高い有効性を持つが、他のJAK阻害剤よりも有害事象のリスクが高い。 ・ritlecitinib 50mgは、高用量経口JAK阻害剤の中で安全性と有効性のバランスが最も良い選択肢である可能性がある。 ・今後の研究では、より長期の直接比較試験が必要とされている。

関連キーワード: JAK inhibitors, alopecia areata, efficacy, network meta-analysis, rct, safety

ご来院頂いている主なエリア

愛知県・北名古屋市、小牧市、一宮市、江南市、名古屋市、清須市、
豊山町、岩倉市、春日井市、稲沢市、犬山市、大口町、扶桑町

岐阜県・岐阜市、各務ヶ原市、可児市、美濃加茂市

愛知県・北名古屋市、小牧市、一宮市、
江南市、名古屋市、清須市、
豊山町、
岩倉市、春日井市、稲沢市、犬山市、
大口町、扶桑町

岐阜県・岐阜市、各務ヶ原市、可児市、
美濃加茂市

SUPERVISOR
監修者情報
岩倉きぼうクリニック院長
松原 章宏

経歴
2014年 名古屋市立大学医学部卒業
2016年 名古屋市立大学病院、江南厚生病院、知多厚生病院皮膚科に勤務
2022年 名古屋市立大学病院 皮膚科 医局長・助教
2023年 咲くらクリニック、大手美容皮膚科、ニキビ治療専門クリニック勤務
2024年 岩倉きぼうクリニック院長

専門医・認定医
日本皮膚科学会専門医
日本アレルギー学会専門医
がん治療認定医

上部へスクロール